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南アルプス 聖岳~光岳

日時: 8月31日~9月3日
参加者: 2人
予てから登りたい山行リストに揚げていた聖岳から光岳の縦走を、連日の晴天予報を信じて決行する。

初日、自宅から2時間半ほどで登山口の易老渡に到着した。駐車場は満車状態。一台分の空きスペースを見つけて、そこへ止めて歩き出す。今回は余裕を持った日程なので、テント装備は私の担当としたが、ザックの重さも全然気にならず、スキップしたくなるほど足も軽い。今回の縦走を心待ちにしていたが、そんな気持ちが自然に足取りを軽くしているようだ。

便ヶ島の聖岳登山口から遊歩道を西沢渡へ。そこには写真で御馴染みの、沢を渡る荷物用の篭があった。これに乗ってみたかったが、立派過ぎる篭は重そうで腕力が要りそうだ。とっとと諦めて橋を渡る。

休憩をしていると単独の女性登山者がやって来た。見るからにベテランらしい登山者なので、この人をペースメーカーにして、後から付いて登る事にした。どんどん快調に登る。ふと、後続のHの息が荒く、足取りも重い事に気がついた。見れば顔は真っ赤で異常な汗の掻き方だ。気分が悪いとの事で、しばし休憩。そこからは、前を歩いてもらう。

30分毎に休憩を入れたが、体調の悪さは変わらないようだ。途中で山行の中止をしようかと思ったが、大丈夫だという。Hぐらいのベテランになると、その時の体調に合わせたペース配分が作れるので、今回のような一般登山道ならば問題ないだろうと考えて続行することにした。何とか頑張ってもらって薊畑分岐へ到着した。開けた分岐にはザックのデポもあり、数人の登山者が休んでいた。

聖岳は生憎雲の中だ。しばらく展望を楽しんでから聖平小屋のテント場へ行き、テントを設営後にビールで乾杯して今日の労をねぎらう。体調の悪さは何処へやら、Hは担いできたお酒でご機嫌だ。14時過ぎには雨が降り出したが、夕方には上がった。

聖平小屋では、受付時にクッキーとお茶が出て、ありがたく頂いたが、とても美味しかった。小屋に用意されている傘を貸してくれるなど、スタッフの方々の対応も親切だった。

次の日は茶臼小屋までと長丁場となる。3時半に起床して朝食後、聖岳を目指して出発する。途中で辺りが明るくなると、富士山が大きなシルエットで見えてきた。幻想的な紫色の富士山だ。小聖岳で休憩を取り、砂礫の斜面を滑らないように慎重に登ると聖岳の山頂に着いた。

今日の聖岳登山の一番乗りだったようだ。360度の大パノラマを満喫する。隣には、5月に登った兎岳。稜線を目で追うと、南アルプスの大きさが実感できる。遠くに中央アルプス、北アルプスだ。山頂の展望を心行くまで楽しんでから下山した。後からぞくぞくと登山者が登って来る。

テント場へ戻ると、小屋のスタッフが「お帰りなさい」と迎えてくれた。テントを撤収してから茶臼小屋へ向けて出発した。上河内岳までの登りは辛い。黙々と我慢の登りを続けると南岳のお花畑が迎えてくれた。砂礫地にはダイコンソウ、斜面にはトリカブトの紫が鮮やかだ。ミネウスユキソウも咲いていた。

上河内岳は二重山稜となっている。上河内岳肩からザックを置いて頂上へピストンした。奇岩竹内門は自然の造詣の妙を見るようだ。線が重なり、屈曲している岩の模様が私には和服の柄のように見えた。

登山地図上で亀甲状土が見られるという場所では、見落とさないように注意して歩いたが、残念ながら気が着く事が出来なかった。

茶臼小屋にはお昼過ぎに着いて、テントを設営後、ビールで喉の渇きを潤す。これが最高のご馳走だ。小屋の水場でガンガンに冷えたビールが瞬く間に胃の中に納まっていく。トマトも冷水に浮かんでいて、これが又絶品だった。

聖平テント場で一緒だった男性二人パーティもやって来た。夕方までにはテントは5張りとなり、各自がのんびりと過ごしている。男性パーティは、川で水浴びをしていたようだ。夏のテント場の暢気な光景が心地良い。夜、満天の星が輝き、遠くでは鹿の鳴き声がしていた。

3日目、光小屋までは余裕のコースタイムだ。ゆっくり起きれば良いと思っていたが、4時過ぎには目が覚めてしまう。コーヒーを飲み、ゆっくりとした朝食後にテント場を後にした。

Hは、若かりし日に茶臼岳までは来た事があるそうだ。喜望峰では休憩後、直ぐ側の仁田岳に登りに行く。山頂からの360度の展望が素晴らしかった。後続者も空身でやって来る。喜望峰の小さな分岐には、大きなザックが何個も並んでいた。何だか愉快な光景だ。

シダとシラビソの樹林帯は、昨日までの景色とは全く趣が違う。シダの緑とシラビソの白が美しいコントラストを描いている。聖岳から茶臼岳のアルプスらしい岩稜の景色から、苔やシダ、シラビソの林、アースハンモックが並ぶ緑の草原と変化する様子が実に面白い。

易老岳を過ぎて、三吉平の先の沢筋登りでは、沢登りの詰めのように息が上がった。詰めあがるとそこは静高平で、光岳小屋はもう直ぐだ。水場の水は枯れていた。センジヶ原の木道を前に、イザルヶ岳に登る事にした。

イザルヶ岳はお碗を伏せたような形で、山頂は広く開け展望も抜群だった。光小屋と光岳も指呼の距離だ。山頂には、手作りらしい青い山名プレート板が立っていた。

記念の写真を撮りあって下山。私が少し先に下りかけると、何やら黒い物が登山道に見える。熊だった!こちらに気が着かない様子だ。こんなシャッターチャンスは又と無いのでカメラに収めた後、Hが大声を上げると、30mほど先にいた熊は顔を上げて、ちらっと私達を見た後で林の中に消えていった。生憎と熊鈴をザックに付けて置いてきたので、大声で歌を歌いながら分岐に戻る。センジヶ原の木道を逃げるように急いで通り、光小屋に駆け込んだ。受付をしながら小屋のご主人に話をすると、昨日も熊の姿を見たとか。その後に小屋に到着したツアーのリーダーも、木道で熊を見たそうだ。

テントを張り、流石に今度は熊鈴を持参して光岳に登りに行く。直ぐに山頂に着き、記念の写真を撮ってから、山名の由来である光岩を見に行った。登山道を数分下ると真っ白な石灰岩の岩峰が現れ、「オ~!」と歓声。階段状を登ってみたが、先は絶壁となっていた。高度感に足がすくみそう。写真を撮り、樹林の中の山頂に戻った。ハイマツは此処が南限とか。登山道で日頃見慣れたハイマツも、愛おしく感じられた。

テントに戻り、お疲れ様のビールで乾杯だ。まだ12時を過ぎたばかり、休憩後に辺りを散策する。隣にテントを張った若者は、甲斐駒ヶ岳から縦走して来て8日目だとの事だった。若さが眩しい。

15時を過ぎて、続々と登山者がやって来た。小屋は賑やかになり、自炊の方々の談笑が聞こえてくる。私達もテント場で最後の夕食を取る。今回の山行では、ビールは冷たい物を飲みたいので、小屋で購入するつもりでいたのだが、連日のテント場到着がお昼では、昼食用と夕食用のビール代が嵩んでいた。それも今日で終わりだと思うと格別の味がする。あちらこちらからは何時までも談笑する声が聞こえてきていた。

最終日、易老渡まではコースタイム上は5時間半の計算だ。ゆっくり起きれば良いと思っていたが、皆さん早起きだ。小屋からは富士山が見えるので、ご来光を見る人、光岳に登る人と賑やかだった。薄暗さから朱に明けて行く景色を見ながら、ゆっくりと最後のコーヒーを飲む。山行中のあれこれが去来して、心に染み入るコーヒーの味となった。

朝は少し肌寒く感じられるが、今日も暑くなるのだろう。若者はもう既に出発していた。私達も6時過ぎにはテント場を後にした。

易老岳まではあっという間、長い下降中、時々樹の写真を撮ったりして気分を変えた。下からは今日も登山者が続々と登ってくる。南アルプスは深くてアプローチが大変だが、便ヶ島、易老渡を登山口とする、比較的に容易なこの周回コースの人気の程が伺えた。易老渡には10時半に着き、遠山郷の「かぐらの湯」で汗を流してから帰宅の徒についた。


立派な篭


聖岳山頂


続く稜線


センジヶ原


光岩


テント場の花・ツーショット!
信州の山遊び